小売業の生存戦略|AIで激変した「購買行動の変化」と来店前に勝つ5つの鉄則
目次
顧客心理が読めず、AI対応の正解も見えない。多くの小売・EC担当者が頭を抱える中、実は勝負の行方はすでに決まっています。
IBMと全米小売業協会(NRF)の最新調査が突きつけたのは、消費者が「来店前」にAIを使いこなし、買うものを決めてしまっているという現実でした。
本記事では、世界23カ国・1万8000人のデータから判明した「購買行動の激変」と、そこから勝ち筋を見出すための「5つの生存戦略」を解説します。
なぜ「来店客」は減ったのか?AIによる購買行動の激変
IBMの調査機関(IBV)とNRFが2025年第3四半期に実施したグローバル調査によると、消費者の45%が購買過程でAIを利用していることが判明しました。
経営者が直視すべきは、AIを利用するタイミングです。消費者が「購入」ボタンをクリックしたり、実店舗に足を運んだりするよりもずっと前の段階で、勝負は始まっています。高度にパーソナライズされた提案や、AIによる情報収集が、消費者の選択肢をすでに形づくっているからです。
具体的なAIの利用用途は以下の通りです。
- 製品のリサーチ(41%)
- レビューの解析(33%)
- お得な情報の検索(31%)
消費者の7割は依然として実店舗での買い物を好み、商品を直接見て触れることを望んでいます。しかし、来店する前にAIを駆使してリサーチとレビュー解析を済ませ、目的意識を持って店舗を訪れる傾向が強まっているのが現状です。来店した時点で、購入候補に入っていないブランドはすでに競争から脱落している可能性が高いと言えます。
検索から対話へシフトする消費者のAI利用ニーズ
AIを活用した「発見」へのシフトは、小売業者に消費者接点の根本的な見直しを迫っています。
靴・アクセサリー販売大手ALDO Groupの最高情報責任者は、ショッピング体験が従来の「検索」から「信頼できる対話」へと変化していると指摘しました。消費者は単に商品を検索するのではなく、自分の好みを深く理解し、中立的かつ最適なアドバイスをくれる「人間のようなアシスタント」を頼りに意思決定を行っています。
NRFのAI・テクノロジーポリシー担当シニアディレクターも同様に、AIが消費者の発見・比較・選択をガイドする役割を強めていると分析しています。これに対応できるかどうかが長期的な顧客ロイヤルティを左右します。
実際に消費者が求めている買い物体験として、35%が「視覚的に魅力的な、待ち時間のない店舗」を挙げたほか、以下のような具体的なニーズが明らかになりました。
・コマースと他のサービスを組み合わせたスーパーアプリ(約33%)
・ AIパーソナルショッパーと自律配送を備えたスマートホーム(30%)
・ ソーシャルプラットフォームを通じた手軽な購入(29%)
これらの数字が如実に示しているのは、消費者が求めているのが単なる「商品」ではなく、生活動線に完全に溶け込んだ「ストレスのない購買体験」であるという事実です。つまり、わざわざ店舗やECサイトを訪れるのではなく、「SNSを見ているついで」や「冷蔵庫の在庫が減った瞬間」に、日常の行動を一切中断することなく、息をするように自然に買い物を済ませたいという欲求が浮き彫りになっています。
実店舗が生き残るための「AI活用5つの鉄則」
AIが消費者の選択基準を再定義する中で、本調査では、ブランドや小売業者が市場優位性を確保するための戦略として、以下の5項目を挙げています。これらをチェックリストとして活用し、自社の現状と照らし合わせてください。
1: 来店前の接点を再設計する(カスタマージャーニーの見直し)
消費者がAIを使ってリサーチや比較検討を行う「場所」と「タイミング」を特定することが大切です。リサーチや検討を行ったその流れのまま、画面遷移などで分断されることなく実際の購入へとスムーズにつながるよう、体験全体を再設計する必要があります。
2:迷いを消す情報を先回りして提供する(不確実性の解消)
「お得な情報の検索」や「レビューの確認」など、消費者が判断に迷う場面で、先回りして情報を提供します。これは単なる問い合わせ対応の効率化ではありません。まだ購入を決めていない段階で自社を選んでもらうための、積極的な「攻め」の支援策と捉えるべきです。
3: 情報の不整合をなくす(データ準備とテスト)
サイトと店舗で在庫や価格が食い違っていれば、AIの情報は嘘になり、顧客の信頼を一瞬で失います。すべてのチャネルでデータが矛盾しないようシステムを連携させ、顧客の利用開始から購入完了まで、情報が正しく機能するかを徹底的にテストする必要があります。
4:ブランドの「らしさ」を磨く(独自性の強化)
AIで接客を自動化し、摩擦をなくすことは重要ですが、それだけでは「どこにでもある無機質な店」になってしまいます。効率を追求するあまり、ブランド独自の個性まで削ぎ落としてはいけません。AIが普及する今だからこそ、あえて人間味のある創造性や「本物の体験」を強調し、他社との違いを際立たせる必要があります。
5:外部パートナーと連携する(スキル投資)
経営幹部の半数以上(51%)が「社内にAIの専門知識がない」ことを深刻な課題として挙げています。人材育成には時間がかかるため、すべてを自前で解決しようとすると手遅れになります。社内のスキルアップを進めつつ、信頼できる外部パートナーと連携し、AI活用を安全かつスピーディに拡大する体制を作ることが急務です。
AI導入で失敗しないための前提条件
消費者の期待が急速に進化する一方で、多くの小売業の運営体制はそのスピードに追いついていないのが実情です。ブランド企業の経営幹部の54%が、チャネルやシステム間でのデータ連携に依然として課題があると報告しています。
しかし、LVMHのインサイト担当ヘッドが強調するように、データが適切に整備されていなければ、どんなに高度なAIソリューション(解決策となるツール)も機能しません。
ツールのテストや価値検証を繰り返す以前に、まずはデータのサイロ化(部門やシステム間の情報の分断)を解消する地道な基盤作りが必要です。
AIの影響を正しく理解し、消費者の意思決定プロセスそのものを形作ることができるか。これが、今後の小売業界における決定的な競争優位性になります。